もうないねん

日曜日の晩に東京から帰ってきた。おっさんの部屋には明かりがついていたので、勝負は空振りに終わったのだろうと思いつつも、それ以外のことが気になるので、翌日おっさんを訪ねると「今銀行と話してんねん。あとで行くわ」。銀行と何を話してるのかはさておき、先週末どうしてたのかを聞くと、あらましはこんなとこやった。


「28日にCカード振り込んでやっとってん。もうばんばん来る。何度も来るから、もう男に飢えとんねん。ワシも断りのメール入れるんやけどな、それでも来んねん。ワシはエッチとかそんなんやのうて、やっぱスポンサーになってくれる人を大事にしたいからな。『もう一人の人と300通メールのやりとりしてます。そんな気はない』て返すんよ。それでも来よるからな」


「探した女もまた来よる。散々探したよと書いて送っても、話そらして返ってくる。それに『いつ来たの?』とか返ってくるからな、こっちは100文字しか送れんちゅうねん。ポイントもないいうのに返事して、、もう相手にしてない。完全に頭から離れてる」


「元スッチー、今入院してんねん。子宮ガンとちゃうか。子宮が痛いいうて。『手術して子どもが生めない体になっても抱いてくれますか』って」


「28日も行ったよ。別の女からメール来たから。夕方から駅行って、茶店入ってコーヒー一杯。2時間ずーっとメール打ち続けてな」


「1000万の人? メール打ったよ。28日? 会えないのわかってるからその日は会える日をまた聞いてな。そしたら風邪ひきよってん。部下がインフルエンザで倒れたからそいつのやる仕事を全部その娘が徹夜でやってたからとうとうダウンしたんやて。こんな体調じゃ会えんて。その娘も泣いてるで。ほんまくやしいって。。生活苦しいって? 言うてるよ。なんて返ってくるか? 『そうなる前に、会いましょう』って」


もう1000万の人に絞ったのと聞くと、


「それともう一人、1000万の人。しばらく連絡してたんやけど、、、また連絡できんようなった」


・・・!?


すでにもう残金数千円なんやと。「もうイったれ〜いうて全部いったった。もうバカついでや」


「もうバカでもいい!!このままやめたらもっとワシバカや思うし、博打で負けて取り返すとかいう問題じゃないし、せっかくここまでやったんやから」


「ほんまワシバカなことしてしもうた。。ほんま家にいても落ち着かんし、ブラーと歩いててな。もうズーッとやってなかったことしてしもうたんよ。久々行ってもうた。。。」


パチンコか。スーパー海物語でも打ったんかと聞くと頷き、「またこれがつかへんねん。なんでや〜〜!! 思うたよ」。


いくらやられたか聞いたら「恥ずかしくて言いとうない」。でも俺が指を2本立てたら、頷いていた。「このままおっても生活あかんの目に見えてるしな〜思うて」。


出会い系にはいくら使ったのか聞くと、どうも既に3万はいかれたようや。


「連れにも電話して、金振りこまさせて、18桁の数字だけ教えてくれって言ってな」


「あそこのリサイクルショップにも服売ってな、アルマーニのシャツが500円て、、、新品やいうのに、あそこのオヤジほんま、、、」


家賃は1ヶ月分払ったようなのだが、電気代、ガス代は払っておらず、携帯代もそのうち問題になる状況だという。米は買ったらしいが一月もつかどうかだという。


「ネコのエサも買うてないからな〜、そう、カリカリな。●●(ネコの名前)ごめんな〜」


ネコもええ迷惑である。「しかし、ほんまネコはよう寝てるわ」。


3月5日、おっさんの手元には数千円と後払いの出会い系のポイント(無論払えない)、そして今後やってくる色々なところからの督促である。


「もうどないもできん。それにな、下の○○のおばはんがな、『何か元気がないね〜』て」。


ほとんどかける言葉もないまま、夕飯の買い物するからと言うて帰ってもらった。これからどうするんだと思うとこなのだが、おっさんの状況はもう、向こう1ヶ月のことを考えるとかいう段階ではなくなってきている。おっさんは、その後また、夜9時ごろ訪ねてきた。疲れた、死ぬほど老け込んだ顔でおっさんが話したことを聞いているうち、俺は背筋の悪寒とともに、本気で誰かに相談せねばと強く思ったのであった