番外編(2) 「ブログ解読」で取り上げられた

稲葉振一郎氏が「ブログ解読」にて「出会い系おっさん」に言及(2007年3月12日の朝日新聞夕刊)。以下は掲載そのままではないが、稲葉氏から送っていただいた草稿を転載。なお、読みやすくするために、改行を一行アキに変えました。


ここでは「きし」が作者みたいに読めてしまいますが、繰り返しますが私はマイミクさん(「アビコ」さん)の日記を転載してるだけです。

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 はじめはみんな笑ってみている「ネタ」だったのである。


 ほとんど同じタイミングで、以前紹介した大学院生dojinのブログ(http://d.hatena.ne.jp/dojin/)と、差別論などを専門とする社会学者岸政彦(龍谷大学)のブログ(http://sociologbook.net/)で、「出会い系サイト」の話題が盛り上がった。


 dojinは出会い系で女の子役のサクラのバイトをしている友人(男)の話を面白おかしく紹介し、「出会い系にメールしてくる男たちは、本当に女の子と会えることを期待し、その多くは実は男であるサクラに手もなくだまされているだけのアホなのか、それともこれはディズニーランドのように、虚構の世界に遊ぶテーマパークのたぐいなのか?」と疑問を提出した。一方岸は友人(mixiでいう「マイミク」)のmixi日記から、出会い系に真面目にはまっている「おっさん」の話を淡々と紹介していく。隣人たる「おっさん」を真面目に心配する日記主はともかく、読者としては抱腹絶倒であった……最初のうちは。


 筆者にも毎日、出会い系からお誘いメールが届くが、妙齢の女性が見ず知らずの男と、しかも大金を払ってでも(「逆援助交際」なるおかしくも恐ろしい言葉が、ネットではすっかり定着した)関係を持ちたい、など申し出てくるとは、常識ある正気の人間なら信じるとは思えない。dojinの「出会い系サイト=テーマパーク」仮説が出てくる所以である。しかしながら広い世の中、信じてはまってしまって、サイト運営会社に高額の手数料をむしられている、シリアスな被害者もまた確実に存在するのだ。岸の紹介する「おっさん」はまさにその好例で、いささかできすぎに思えるほどのはまり具合だ。


 おっさんのような被害者はよほどのアホで、言ってみれば自業自得なのだろうか? だとしてもやはりサクラ行為はれっきとした詐欺で、騙された者の愚かさが騙した者の罪を帳消しにするわけはない。そして実際、最初はただおっさんを笑っていた読者も、やがて徐々に肝が冷えていく。ちょいとばかり金をむしられてハイ終わり、の笑い話ではすまないかもしれない。はまり方によっては、気付いたらヤミ金にひっかかった多重債務者のようになりかねない、悪質な出会い系(健全な出会い系、が存在するのかどうかについては不明をお詫びする)の恐ろしさが伝わってくると同時に、おっさんの心の動き、はまった理由もなんとなく分かってくる。


 別におっさんはどうしようもないアホというわけではない。景気のよいときにはブンブン言わせていたこともあるが、不況で事業は傾き、気がつけば60を前にひとり身だ。女にせよビジネスにせよ、おっさんはそれでもまだ長い先の人生、もうひと勝負したいのだ。「離婚して慰謝料をせしめたがひとり寂しい熟女」からの「逆援助」の申し出に心が動いてしまうのは、スケベ根性もあろうがビジネスへの飢えのなせる業でもある。純然たる色欲だけでも、また単なる金銭欲だけでも、ここまではまることはなかっただろう。まさにおっさんは「心の隙を衝かれた」のだ。そして「いかにもうそ臭い→しかし本当にだますつもりなら、こんなみえみえの嘘をわざわざつくはずがない→ひょっとしたら本当かも?→本当だ!」とはまっていく……。(なお「おっさん」ネタはその後http://d.hatena.ne.jp/DeaiK-Ossan/に引っ越しています。)