100万円ゲットだぜ

おっさんは嬉々とした顔で「やったで、ついにやったで〜!!」と大はしゃぎである。金もないのにまた性懲りもなくよからぬことやっとんなと思いつつ、台所で茶を飲みつつ話を聞くと、あらましはだいたいこんなところやった。やれやれ、、、



「100万!100万ゲットしてん!!やったよワシ、ほんまねばった甲斐あったで!!言うたやろ? ワシは100万とるいうたら絶対にとる、そういう男て、なっ!!!」


「懸賞当たってん!!メール来てな、いや、前のとは別の。それにエントリーしてな、、いや、ちゃうねん、これはちゃうねん、事情があんねんて。(携帯見せながら)これな、サイトを退会した女の子がな、余らしたポイントを私はいいですから別の人に使って下さいってのがあってな、そういうのがたまって147万円になってんて。そっからサイトが100万を還元するいうわけよ」


「3000円で登録すんねん。金? そら後で払うけどな。前のやつ? あれはもうやってへん。もうやけくそなってな、来るやつには片っ端から登録しまくったった。それよりな、ほら、登録したらIDが来んねんけど、あんたは色々言うやろけどな、ほら、今朝メールが来てん。見たらワシのIDやからびっくりしたよ」


「金どうやって受け取るか? ちゃんとUFJの口座番号教えたよ」


「ワシもずっとつかんかったけどな、また運向いてきたで。今度の女の子は900万援助してくれるいうからな。300万ずつ分けてな。『会いに行く時に現金持って歩くのは危険だから口座番号教えてくれたら振り込みます』って。ひとまず300万入れてくれるって。これから駅前でまた待ち合わせや。今度は住吉区で登録したからな。うん、メール仰山来るよ」


「だって、ワシこのままやと苦しいもん。電気はどうにかなったけど、ガスは明日止めに来る。しばらく風呂に入れへん。別に家おるだけやからええねんけど。ネコしかおらへんし。家賃払って色々払ってやってたら来月もいくらも残らんよ。でも言うたとおりやろ!!」


今度は懸賞系である。まったく次から次へと。。俺も慣れたもんで、すぐにサイトのアドレスを聞き、ググってみると、これまたビンゴもええとこであった。そのサイトの被害を報告する専用掲示板を印刷して、アホを相手する調子でそのありえなさを説明するも、そんなことはお構いなしで、何やら携帯をポチポチ押している。何やってるのか聞くと、


「いや、さっき言うた女の子に待ち合わせ場所伝えよう思うてな。。。ん??あれ、あかん。。」


何があかんのか、もう既にどうでもええといった気分なのだが聞くと、


「あかん、送られへん。あ〜畜生!ポイント切れたんか!!ほんま肝心な時にいつもいつも。。。」


「この娘な、メアド送ってきてん。画像で。直接送るとサイトが邪魔しよるから、みんな試行錯誤しとるよ。これやねんけど、画像が荒くてよう見えへんねん。"love..."、こっからがようわからんのよな〜、これ何やろ、見て、やっぱ "t" かな?」


俺はその間も自分のアドレスに来る、「当選しました」やら「誰それの紹介でメールしてます」やらを印刷して、おっさんに渡し、「そんなん俺にもこんだけ来るんや。そら1日50件じゃきかへんくらいよ。こんなん即削除や、気色悪い」。「ていうかな、おっさんここら歩いててな、900万持ってそうな女歩いてるか? 自分の生活感覚とやって来るメールの内容とどっちが信用に足るよ」と、ええ加減わからんか〜いう感じでまた話をしてたのだが、


「いや、それがおんねんて。住吉やら住之江やら。ワシもここらは貧乏人ばかりや思てたけど、持っとる人は持ってんねんて!!」


・・・やはり携帯とりあげなどうしようもないんかと思いつつ、「おとなしゅうしとくのはシンドイかしらんけど、おっさんついてないついてない言うけどな、今回家追い出されんでついてるって思わんか? 俺かてあんな世話、好きでやっとんとちゃうぞ。俺にしても不動産屋にしてもな、あんた気持ち踏みにじっとんねんで」。


こんなステレオタイプな嫌ごとは言いたくないと思いつつも、出てくる言葉を選んでられる程の気持ちの余裕もなく恫喝してしまった。もうええわと思い、「返して」と俺に届いたメールのコピーをおっさんの手から取ろうとすると、おっさんは腕を少し引っ込めた。「え!? これもらえへんの」というような顔をしとる。


「・・まさか!?、、、え〜〜!!」


俺はあきれるばかりであった。おっさんはそのコピーに書かれてたアドレスにアクセスしようとしてたに違いない。100万ゲットしたんとちゃうんか、まったく。。。まあ、何も聞いてないように見えて多少不安になったんやろう。それ以上は話をせず、コピーを返してもらい帰ってもらった。



やれやれ、である。